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2011/09/09

どん臭く、愚直で、しかし美しい生き様 ― 『日の名残り』


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これは、ただひたすら、「執事」という仕事に励む男の話である。「愚直に」と言い換えても差しつかえない。どこまでも、どこまでも、主人のために尽くし、主人のために働くのが、この物語の主人公なのだ。

舞台は第二次大戦前の「過去」と、第二次大戦後(1950年代)の「現在」である。執事のスティーブンは戦前、主人であるダーリントン卿に仕えていた。ダーリントン卿は、第一次大戦によって荒廃したドイツを救うため、英仏両政府に寛大な処置を求めていた。

しかし、それが第二次大戦後に仇となり、「ナチス・ドイツの支持者」という心にもない汚名を着せられてしまう。卿は失意の内に亡くなり、彼の屋敷は戦後、米国人ルイスによって引き継がれる。

スティーブンの中には葛藤があった。世間で非難されている元主人に、かつて仕えていた自分にも非があるのか。卿に対して心から仕えていた過去を、「今」は隠すべきなのか。時代は変わり、人々の思想も大きく変わった今日、自らの生き方も変えるべきなのか、と。

結局、スティーブンはそのままルイスに仕えた。かつて国際会議で、ダーリントン卿を批判した男だったが、新しい主人が誰であろうと、そして彼の思想信条が卿と違えども、スティーブンは「執事」という仕事を続けた。

非常に美しい生き方だと思う。主人が、世間が、時代がどうであれ、自分は執事である。人に仕えるのが仕事であり、それをまっとうするのがみずからの役目だ ― 彼の言動一つひとつから、目に見えないそのメッセージが、私には読み取れた。

こういうものを美学と呼ぶのだろう。哲学と言ってもいい。しかし一方で、そういう生き方がどん臭かったり、不器用だったり、バカ正直のようにも見えなくない。損な感じもする。では、そういう人は不幸かといえば、そんなことはない。

人間は、自分の「つとめ」を果たせた時が、一番「幸せ」を感じられると私は思っている。「幸せ」を、「充実感」や「達成感」、「やりがい」などと言い換えてもいい。

「つとめ」といっても、仕事や義務的なものだけに限らない。なにかひとつ頑張っているものがあれば、それはその人にとっての「つとめ」である。「つとめ」を果たすまでの過程が他人から泥臭く見えても、それを果たせた時の幸せが得られれば、ベストである。

スティーブンはダーリントン卿に仕えるという、ひとつの「つとめ」をまっとうした。しかし、世間はそれを良く思わない。だが、彼は「幸せ」を(それが大きいか小さいかは関係なく)つかんだはずだ。たとえ世間の価値観と自分の価値観の相違に悩むということがあっても、である。

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