2011.01.21
 コンピュータに「嫉妬」するのは筋違い ― 『コンピュータVSプロ棋士』
古今東西、映画やマンガなどで「人間VS機械」というテーマを扱った作品は多いが、何も架空の話には留まらない。事実、現代の将棋界ではその闘いが白熱しているのだ。

そして本書を読んで確信した。近い将来、将棋ソフトが名人に勝つ日は必ず来る。


コンピュータVSプロ棋士―名人に勝つ日はいつか (PHP新書)コンピュータVSプロ棋士―名人に勝つ日はいつか (PHP新書)
(2011/01)
岡嶋 裕史

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第1章 渡辺竜王との夢の対局
第2章 ディープブルーが勝利した日
第3章 将棋ソフトが進歩してきた道
第4章 「手を読む」と「局面を評価する」は違う
第5章 局面をどう評価するか
第6章 清水市代女流王将vs「あから2010」
第7章 名人に勝つ日


本書は、現在の将棋ソフト(ボナンザなど)の性能や思考回路、そしてプロ棋士との対局における最新の現状などをまとめたものだ。

現役のプロ棋士が書いた本かと思いきや、そうではない。著者は関東学院大学の准教授で、情報ネットワーク論を担当しているとのこと。理系の先生ということで、本書も将棋ソフトの仕組みといった理系的な内容を主に扱っている。

特に興味深いと感じたのは将棋ソフトの未来について述べた第七章だ。「人間の真似からの脱却」「将棋の魅力は失われない」「複合将棋の可能性」など、この章では今後の将棋ソフトについての考察がなされている。

そして以下は、本書を読んでの私なりの考察。


人間とコンピュータの最大の違い ― 言わずもがなではあるが、それは「心」の有無だろう。人間のように動揺や不安や焦りといったものがコンピュータにはない。それは対局中、「常時」冷静な判断が下せることを意味する。言い換えれば心理戦という将棋の醍醐味が無に等しい状態であり、人間にとっては悲しい知らせだ。

コンピュータの対戦相手は人間ただ一人。しかし人間の対戦相手はコンピュータ一台では済まない。「自分の心」も対局中では立派な敵になりうる。さらに突っ込めば「体力」も含めて三人にカウントできるだろう。敵の数がコンピュータと比べて多いのも、「人間VSコンピュータ」の特徴と言える。

心や体力といった概念もなく、いつでも落ち着いて最善手を考え出す人造人間 ― このように考えてみるだけでも、人間と将棋ソフトの闘いを純粋に「人間の思考VSコンピュータの思考」という枠組みで見ることがいかに難しいことか。

だがそれでも今後、コンピュータとの対局がますます盛り上がっていくのは間違いない。そうであるならば、いや、そうであるからこそ、プロは今まで以上にタフな精神力とそれに裏打ちされた思考力や体力が求められることになるのだろうと本章を読んでいて感じた。(そしてこの「将棋ソフトの進化」がプロとアマの境界線をより一層に明確にするのではないだろうか)

と、ここまで将棋ソフトのことを述べてきたが、現実でも、コンピュータが出てきたために人間そのものが変わらないと能力の面でコンピュータに追い越されてしまうといった事態は起きている。

パソコンが職場に普及する前までは「人間の仕事」として見なされていたものが、今ではどんどん「コンピュータでもできる仕事」に置き換わっている。そうなっていけばいくほど、「人間にしかできない仕事とは何なのか」という疑問が生まれる。コンピュータは確かに人間の手助けをしてはくれるが、それと同時に「人間にしかできないこと」「コンピュータにはない人としての価値」も改めて問うている存在なのだ。

「人間VS機械」という問題はかなり根が深い。そういう意味で、本書はその問題の氷山の一角を示していると言えよう。
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