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2011/11/19

大理論や大発見が日本では生まれづらい理由 ― 『森林の思考・砂漠の思考』


森林の思考・砂漠の思考 (NHKブックス 312)森林の思考・砂漠の思考 (NHKブックス 312)
(1978/03)
鈴木 秀夫

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比較文化論というのは、個人的に大好きなのですぐに買ってしまうタチだ。

タイトルが風変わりでおもしろい。「森林の思考」「砂漠の思考」とあるが、これは森林の多い土地に住む人々の考え方、砂漠のある土地に住む人々の考え方という意味で筆者は使っている。ちなみに日本人は「森林の思考」タイプだそうだ。

では、その「森林の思考」とはなにか。

その特徴の1つは「世界は永遠に続く」と考える点である。生物が死ぬと、よく「土に帰る」という表現を使うが、森林の中では生の誕生から死へのサイクルが絶えず行われている。それを、生と死の円環が回り続けているのだと「森林の民」たちは考え、そのような死生観を持つのだという。

2つめの特徴は「迷い」だ。森林の中はその茂みにより、道なかばで迷いやすい。しかし迷いに迷った挙句、着いた先が桃源郷であったりもする。そういう経験が、「迷い」というものを必ずしも否定的には捉えないことにつながるのであり、むしろ人間の判断など取るに足らないものだという発想も生まれる。

3つめの特徴は「分析的」だ。森林の民にとって、森林の中全体を見通すというのは甚だ困難である。草木の繁茂が視界を妨げるわけだから、それは当然のことだろう。それゆえ彼らは「今自分にとって見えるもの」の解明に努めようとする。森の全てを知ろうとするのではなく今、自分自身が見ることのできるものを知ろうとするのだ。その姿勢が、たとえば、ある理論の証明のためにコツコツと事実確認をしたり、なにかの原理や法則を見つけ出そうとすることにつながっていくのだという。

一方「砂漠の思考」は、これらと全く逆だ。

砂漠で死ねばそれまでである。その死からなにかが生み出されることはない。その過酷な現実が、世界はある一点から始まり、ある一点で終わるという「直線的な時間軸」を生み出す。

また、砂漠では常に水不足の危険にさらされているがゆえ、どの方向、どの方角へ進むかを決めるのにグズグズしてはいられない。彼らにとって「迷い」は死を意味するので、自分の考えや意見は常にはっきりさせておかなければならない。

そして、砂漠は森林の中と比べてみると、周囲の見通し具合はすこぶる良い。その良さゆえ、また、水のあるオアシスがどこにあるかを知りたいがゆえ、自分たちにとって直接は見えないものに関心を抱く。その態度が、たとえば神話などに見られるような想像力や発想力の豊かさに影響を与えているのだそうだ。

こういった風土の違いにより、それぞれの地に住む人たちの、好き嫌いや得手不得手とするものも違ってくる。

例を挙げると、日本では学問の世界において大理論や大発見などは生まれづらいらしい。それは「森林の民」である日本人が「分析」には優れているが、「砂漠の民」である欧米人と比べて、ものごとを総合的に捉えようとする姿勢が乏しいからだ。また欧米で「わかりません」という態度は、日本と比較すると、より否定的に捉えられてしまう。「砂漠の民」は、仮に事実がはっきりしなくても、「自分はこう思う」とか「自分にはこう見える」などと立場を明確にするをよしとする。

もちろん、日本人だから皆が皆「森林の思考」であるわけではなく、それは欧米人の場合も然りである。私はどちらかというと「砂漠の民」かもしれない。自分の考えや意見は、はっきりさせないと嫌だし、直接は見えないものにもいろんな意味で関心がある。くっだらない妄想も大好きだったりする。

ちなみにだが、筆者によると今日の日本では「森林」の「砂漠化」が進んでいるとのこと。当然の成り行きかもしれない。一国のリーダーや大企業のトップが「存じません」だとか「それについては後ほど云々」などと、お茶を濁したり曖昧なことばかり言っていれば、「砂漠化」を求めるのは起こるべくして起きたと言える。

学問の世界はどうだろう。かつて数学者の岡潔が「三つの大問題」とされた数学の難問を全て一人で解決できたのは、「森林の思考」を宿していたからかもしれない。そうと思いきや、京都大学の山中伸弥教授はiPS細胞の発見者であり、これは「砂漠の思考」による産物の可能性だってある。

とは言っても簡単に割り切れるほど単純な問題ではないが、どちらにせよ「偉人」や「成功者」と呼ばれる人たちというのは、両方の思考を上手に駆使できるのが共通点になっていそうな気はする。
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